行事の思い出の中で特に印象に残っているのが毎年秋に行われる学習発表会。
その年の中高学部の出し物は「海外特派員報告」でした。
担当の英語の授業と総合的な学習の時間に、横断的に行っていた国際理解教育の総まとめを、テレビ番組仕立てにしました。
環境問題や人権問題などの中からそれぞれ1つテーマを決め調べたことを、「特派員」として現地からリポートするという設定。
英語教員だからというのももちろんありましたが、遠い世界に思いを馳せ広い視野に立ってほしい、と強く願っていたのが国際理解教育を積極的に進めていた理由です。病院という閉鎖的な空間にいると、とかく近視眼的になってしまうもの。”病気になって友達と引き裂かれた可哀想な自分”と決めつけ、そこにとどまってしまう。そんなうつむいた顔を上げて少し遠くを見る、海の向こうに気持ちを向けることで固まっていた心が解き放たれることを期待しました。飢餓や戦争で明日もわからない地域、紛争で国を追われる難民、温暖化など自然条件の変化の中、絶滅の危機にいる動物たち、言論の弾圧や女性差別、人種差別で計り知れない苦しみを抱える人たち。
特に少年兵の話、女の子が教育を受けられない国があることなどがテーマに上がると、自分だったら・・と気持ちを置き換えて話し合う機会にもなりました。
そんな中、中2のHくんは、「僕はやっぱり身の回りのことをテーマにしたい。日本からの報告、ということでいいかな」
”日本で進むユニバーサルデザイン”と題し、院内を取材しました。インターネットでささっと調べるのではなく、病院という公共施設に自分がいることをあえて利用したHくん。さすがです。私の思惑としては次の段階として海外ではどれくらい進んでいるのかな・・というところまで発展するといいな、と考えていたけど、体調の悪い日が多い中、院内を自分の足を使って実感し完成となりました。
まず定義を調べて・・
「障害の有無、年齢、性別、人種等にかかわらず多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境をデザインする考え方【障害者基本計画】」
そうか、普段何気なく利用しているものにも、なるべく多くの人が使いやすく設計されているものが多いんだね。
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トイレの表示は大きくてわかりやすい。
エントランスは自動ドアで誰でも楽に利用できるね。
エレベータ内のボタンは車椅子の人でも届くところについている。
・・・・
病院だけあって、一番のユニバーサルデザインはボランティアさんたちの存在じゃないかな。
なるほど!
受付のあたりではエプロンをかけたボランティアさんたちが迷っている人に説明したり、荷物を持ったりしている。廊下では車椅子を押したり、にこやかに話しながら案内したりしている。
完璧なユニバーサルデザインは存在しないことを確かめてから、
それを補うのはやっぱり温かい人の心だね。
この日はHくんの気づきから私は大切なことをまた一つ教えてもらいました。
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取材を終えたHくんはパワーポイントに写真を取り込んで、キーワードを入れ、発表原稿をせっせと仕上げていました。
当日。
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「では次です。ここ日本でユニバーサルデザインがどれだけ進んでいるか。東大病院からHさんのリポートです。Hさ~ん」
「はい。こちらHです。1990年代にアメリカで始まったユニバーサルデザインですが・・・」
🎤
海外としっかりリンクさせたHくん。私の思惑、バレてました。
学ぶこと、追究することはすなわち、人と共感し、相手の立場に立ってものを考えられるようになること。そして生き方を模索すること。授業のたびに、ささいな毎日の積み重ねが、将来の希望の種になればと考えながらの、英語の時間、総合の時間が本当に楽しかったものです。
学びあう、気づきあう、共感する。ワクワクする。
子どもたちが私の先生。