今年の夏の暑さは尋常ではありません。行動への意欲も減りそれがまたストレスになってしまう人も多いのではないでしょうか。
日常のストレスを発散するために私たちが行うことといえば、音楽を聴く、運動をする、美術鑑賞をする、自然の中に身を委ねる、ペットと戯れる、買い物をするなど、人それぞれです。
子どもだったら多少暑くたって、外に飛び出して思いっきり体を動かしたりできます。
しかし、重い障がいのある人にとってはストレスを癒すために、自らが好きなところへ自由に出向いたり体を動かしたり、ということ自体ができない場合が多いのです。
ますますストレスがたまってしまうでしょう。
それに対応できるのがスヌーズレン。
ひと言で言えば「「癒しの空間」といったところでしょうか。
自らの環境を自ら作り出せない人たちのために、周囲の人たちの援助によって人工的に作られた部屋のことをいいます。
1970年代にオランダで始まったこのシステムは今では世界各国に広まり、日本でも少しずつ病院や施設で取り入れられています。
4年前に活動を開始した、こどものホスピス「淀川キリスト教病院」ではスヌーズレンの部屋が設置されているばかりか、廊下や玄関などふとしたところに空間があり、本で読んだり写真を見たりしてイメージしていただけだったものを実際に目にしたものです。
ではスヌーズレンとはどんなところなのでしょうか。
「人間の持つすべての基本感覚を刺激し、統合させ、機能させるための環境設定法」
「人間が生まれ持つ基本的な能力(視覚、聴覚、嗅覚、味覚)とともに携わる運動感覚や認知感覚を鋭敏にするために、いろいろな方法によって設定した環境で適度の刺激を与える空間」
「受ける側はそれらひとつひとつを楽しみながら感知し、体感し、学習し、自分のペースで自分にあった刺激を自発的に選択して受け入れ、自然な形で感覚を磨いていく空間」
河本佳子著 スウエーデンのスヌーズレン より
大自然を見立てて人工的に作った環境ですが、いろいろな仕掛けがあり、様々な疑似体験ができる、さらに気持ちの良いゆったりした癒しの雰囲気を感じることができるのです。
具体的には・・
穏やかな雰囲気が作られ、気持ちを落ち着かせられる空間
環境音楽が流れてリラックスできる部屋
ワクワク遊びごころがそそられる場所
感覚刺激に身を委ね気持ちよくなる部屋
などなど・・
・水槽の水の流れや魚の動き回るようすを、いつまでもうっとり見ている小さな子ども
・砂時計の砂がゆっくりと落ちていくさまを無心に見つめ、飽きることなく何度も繰り返しひっくり返して見ている子ども
彼らは自らがスヌーズレンの環境を作っている、と言えるかもしれません。
スヌーズレンとは感覚のバリアフリー
SHJの芸術活動がダイナミックな高揚感をもたらすものとしたら、スヌーズレンで過ごす時間は穏やかな水の流れに身をまかせるようなリラックスタイム。
特に重度重複障害を持つ子どもにとっては、心地よい最高の空間ではないでしょうか。思いのままに動けない身体で、魅惑的ものを見つめ、皮膚で感じ、振動を体感し、珍しい音を聞く。じっとしていても、周囲の変化を感じることができます。
私たちも、早い時間の流れや過多な情報にとかく流される日常。
ちょっとスローダウンして自分のスヌーズレンを探してみるのもいいかもしれません。
時には障害のある子どもとスヌーズレンで戯れてみるのも。
こんな時、思いもよらなかった気づきを彼らが与えてくれるかもしれません。
もっともっと広がれ、スヌーズレン!
参考:河本佳子著 スウエーデンのスヌーズレン