オットー・ネーベル(1892-1973年)は、ベルリンに生まれ育った画家。
一昨日まで渋谷文化村で回顧展が開催されました。
ネーベルはナチスの弾圧を受けてスイスのベルンに移住した後も、精力的に制作活動を続けた不屈の精神の持ち主だったようです。
回顧展では、ドイツのバウハウス(美術学校)で親しかったカンディンスキーやクレーの作品も展示されていました。
ネーベルは、建築、演劇、詩作など多分野に活躍の場を広げた豊かな才能の持ち主。
彼の有名な作品『イタリアのカラーアトラス(色彩地図帳)』にはそのユニークさとシンプルさに圧倒されました。
3か月間にわたるイタリア滞在において、各都市での色と形の研究の成果をそれはそれは美しくまとめたケッチブック。
「都市の個性を色彩で表現しよう」と試みた実験のひとつだそうです。
風景の中のモチーフを四角い色面に置き換え、都市の景観を描くという大胆かつお茶目なワーク。
ネーベルの人柄までも映し出しているようです。
ナチスの弾圧をかわし、ライフワークを貫くことができたのもこの人柄の所以かもしれません。
思わずロベルト・ベニーニ監督の映画”Life is Beautiful”を浮かべました。
絶望的な収容所の生活も、父親のユーモアにより息子にとっては最後まで楽しいゲームのままナチスが撤退する、という名作。
そのほか、都市の建築物の輪郭を立方体や結晶体の形にあてはめた「都市の建築シリーズ」は色彩のコントラストが見事。
ネーベルがいかに建築を愛し学んだかがうかがわれます。
作品のタイトルに音楽用語を使用しているものも数々ありました。
ドッピオ・モヴィメント〜二倍の速さで〜とか、コン・テネレッツァ〜優しく〜とか。
演劇や音楽も手がけたネーベルですから「建築シリーズ」同様、「音楽シリーズ」(?)も手がけたのでしょう。
さらにネーベルの作品の中には、「子供の魂から生み出された」と語る色彩豊かな明るい作品もあります。
アートと子ども。
アーティストの感性にはちらりほらりと「子ども」が宿っている。制作に向かう芸術家はその最中は子どもに戻っているのかも。
SHJアーティストのプログラムの中に、
そして国内外の作家の展覧会を訪れるたびに感じます。