去年暮れに在宅訪問を始めました。重い障がいや難病のために医療ケアを常時必要とし、外出できない方たちのもとへ、こちらから押しかけてしまおうという活動です。100%の個別対応だからアートに加えて趣味の話や最近の出来事などまで、話に花が咲きます。ご家族も一緒のプライベートコンサート(しかもリクエスト付き)は少しずつですが広がっています。
今日は東京都練馬区のHさん宅にお邪魔しました。担当はフォークジャズ&シンガーソングライターの石橋和子さんでピアノ弾き語りミニライブです。
季節感を込めて「夏の思い出」でスタート、ジャズスタンダートの ”Summer Time” ”Smile”と続けた後は、リクエストに応えてカーペンターズの”Super Star” ”Song For You” 、石橋さんが歌詞もアレンジした”ケセラセラ”・・・最後はブルースぞうさん。
ブルースぞうさん? ジャズのスタンダードナンバー”Good Times”のコードが童謡「ぞうさん」とマッチすることに気づいた石橋さんが、SHJの活動を始めるにあたり考えついた人気の曲、私も大好きな曲です。まずは三拍子で童謡「ぞうさん」が始まるとちょっと退屈そうな空気が流れるも構わず、♪そうよ、かあさんが好きなのよ~♪までゆったりと歌います。ここからがポイント。この章節が終わるといきなりずんずんちゃちゃのビートに変わり”Everybody, yeah!”とパンチの効いた低音でjazzy mood! さっと子どもたちの瞳が輝き、自然と体がリズムをとります。この落差を石橋さん自身も楽しんでたりして・・。
Hさんもさすがになぜ最後にぞうさん?・・と拍子抜けしてたけど、なあんだ、そういう計らいかぁとホッとしたような心から楽しんでいるような表情、頰が心なしかピンク色に染まっていて、こちらもホッとしました。こんな盛り上がりの中、次回の宿題をもらって終了。
Hさんはベッドサイドに置いたパソコンに機器をつけて指先で操作、好きなバンドや音楽のサイトにさっとアクセスして紹介してくれました。写真のパソコン台はお祖父様が作ってくださったとのこと。角度や高さが変えられるよう使いやすく作られています。木のぬくもりもあったかい。
そもそも在宅訪問を始めたのは、退院して自宅で過ごすことになった子どもとご家族は入院中以上に孤独感や閉塞感に苛まれる、ということが理由です。団体を立ち上げてしばらくは病棟のプレイルームでの活動と病室のベッドサイドでの活動でした。特にベッドから出られない子どもたちは、入院児の中でも特に安静が必要なために不自由な変化のない生活をベッド上一人で送っています。楽しい!ワクワク!する時間を誰よりも必要としていると考え、個別活動を特に大切に活動しているうち、これって在宅医療を受ける子どもにも必要なんじゃないの?ということになったわけです。私自身、長期入院を経て退院した時は孤独感で胸が押しつぶされそうでした。入院前に暮らしていた場所に戻ったというのに、まるで知らない土地にぽーんと放り出されたような、そして社会の誰からも忘れられてしまったかのような疎外感。病棟で退院する子どもを「おめでとう!」と言って見送ったことは何度かありますが、子どもも家族もきっと嬉しさと同じくらい不安があると思います。院内学級で退院、転出する子どもとお別れした時も同じように感じたのを覚えています。看護師さんも地域医療連携室のスタッフもやはり「退院後どうしているかが心配なんです」と。病院での活動実績を経て在宅も、ということになりました。
小児を対象にした訪問看護ステーションや患者家族会を訪問してニーズの調査をしたり、都内の特別支援学校の進路部にチラシを置かせてもらったりしたことが功を奏して少しずつ広がりました。現在は千葉県、東京都、広島市で行っています。
「家にいながら自分たちだけのコンサートが聴けるなんて」と大変喜ばれています。年齢や興味、状態に合わせて朗読や工作なども工夫しながら届けていきたいと思います。