改めて、術後に届いた下訳本を手に取ってみた。
「ビル・ブライソンの究極のアウトドア体験―北米アパラチア自然歩道を行く」
手術後の痛みが疼く中、届いた1冊の本。
数週間前に仕上げて提出していた下訳が製本されたのだ。
やっと生きている実感がつかめたような瞬間だった。
喜びとともに、時間は何事もないかのように流れていくことを確認した。
「無常」と「無情」がプラスに働いて「日にちぐすり」
我ながら言い得て妙。
もっとも、ベッドテーブルの上に無造作に置かれたその本を、腕を伸ばして手に取ることはできない。
家族にペラペラとめくってもらって、
ああ、ここの訳、苦労したなあ、とか。
ワープロに打ち込んだ訳が、息子が足を引っ掛けてコンセントが抜け、あっけなく数ページ分消えて泣きそうになったこととか。
考えてみれば、あの頃はアウトドアなんで全く興味がなかったけど、たまたま訳者の依頼を受けて訳してみたらユーモアたっぷりで面白かった。
今はアウトドアが好き。
遠出すると日帰り温泉に入ってキャンプ場で車内泊したり、地場野菜や肉を市場で買ってテント下で調理して乾杯!というスタイルが大好き。
この翻訳の影響はないと思うけど、アパラチアの大自然への憧れが無意識の中に住み着いていたのかもしれない。
アパラチアトレイルを歩く二人の中年男性の、弥次喜多道中といった奮闘ぶりはとてもユーモアがあって面白い。単なる紀行を超えた文明批判や歴史的考察もあって、奥深い。
『90年代アメリカ話題の作家&BOOK』
と言う本にもこの本が3ページにわたって紹介されているという。
ああ、こんなこともあったなあ。
試練の前の甘くほろ苦い自分探しの時代を思い出した。