前回綴ったベーシスト吉本信行さんは
聴覚を失い、失意の日々を過ごしたのち、
人工内耳を使いながらのトレーニングと
途轍もない努力を続けながら
ライフワークである音楽の世界を広げてきました。
失って音の大切さに気づき、
音楽という自分の世界を追求することを再開したのです。
しかし、そこにとどまることなく
自分以外の聞えない人たちに思いを馳せ
寄り添うことを使命とした吉本さん。
人工内耳を広く知ってもらうために日本中を、
世界中を啓蒙して回っています。
それほどまでに忙しくしていても
「何かに集中していないと辛い」
と言います。
確かに、人とのコミュニケーションや音楽づくり・・
それが無かったら全く音のない世界に一人取り残される気持ちだと。
だからなんですね。
吉本さんはA5サイズほどの画用紙を持ち歩いていて
絵を描くことを習慣にしているそうです。
セッションの打ち合わせが一通り終わってステージが始まるまでの間、
ステージとステージの幕間、
他メンバーのセッションの間
ひたすら「筆を運ぶこと」に没頭しています。
ピアノ演奏のアーティスト
熱唱するボーカリスト
熱演するギタリストやパーカッショニスト・・・。
そして全てのステージが終わると
私のことも描いてくれました。
障がいによって起こる間接的で二次的な課題。
新たに立ち向かわなくてはならない困難さ、
それが返って人生を豊かにしてくれる
そんな印象を受け、
吉本さんの生き方に心が震えます。
何不自由なく自分のテーマを追い続けられることは
確かにラッキーなことなのかもしれません。
しかし、
障がいが自分以外の人の生活、人生、生きにくさ
に心を寄せ
自分に起こったことを生かして
人のために何かできるのではないかと
深く考え新しい気づきを得、行動する。
これはとても豊かな生き方だと思うのです。
健常と言われる人の何倍も
厚みのある生き方のように感じます。
相手の気持ちになること
人のために何ができるか考え実行すること
足元にも及びませんが、
私もそうありたいと思います。