母の暮らすホームの広大な庭には
樹齢数百年という黒々とした老木が何本もあります。
そんな中、ひときわ鮮やかなのが
サルスベリ。
幼い頃
木登りが得意だった私は
サルスベリを好んで登るという
習性がありました。
前世はボスザルか・・
いやせめて愛嬌たっぷりのお猿さんがいい。
そんなお転婆な私を
母は特に心配することもなく
放置してくれ、
それをいいことに野生児を決め込んでいたものです。
だから
私にとって夏といえばサルスベリ
そして
夏、サルスベリ、蝉しぐれとくれば
母を思い感傷的になるのです。
小さい頃、母に質問したのを覚えています。
「なんでさるすべりっていうの?」
「猿でも滑ってしまうほどツルツルしているからだよ」
ふうん・・・
おかしいなあ・・・
と心の中で思いながら
私は猿よりも
木登りが上手なんだ
なんてことは
なぜか胸にしまいました。
家のすぐそばの空き地に植わっていた
サルスベリが
マイツリーだったこと。
幹は確かにツルツルスベスベだけど
枝ぶりが木登りにちょうどいいこと。
訳もなく秘密にしたかった。
うまいこと足を引っ掛けて
スイスイスイと登っていることなど
家族の誰も知る由もなかったのです。
でも少なくとも
木登りが好きな変な子
というところまでは認識していたのでしょう。
小さな姿が見えないと
野に放たれた私を捕まえに
エプロンをつけたまま
おきまりの空き地に来た母は
まず上を見上げていたほど。
「あの木がまさに
サルスベリだったんだよ。
ホームの庭に見事に咲いている、あの木」
と今話しても
あ、そうか
ってな顔をしたかしないか
ま、どちらでもいい。
とにかく
真っ黒に日焼けして
髪はベリーショートのセシルカットだったから
木の上にいたら
誰が見ても
やっぱりサル
だっただろうな。
「都会にもサルがいるんだ」
なんて
よくからかわれたものです。
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さてサルスベリは
別名「百日紅」(ヒャクジツコウ)といい、
その名の通り初夏から秋までの長い間咲き続けます。
花は紅色やピンク、白など。
中でも私が好きなのは鮮やかな紅色。
縮れた花びらの小さな花が集まって房のようにたわわに咲きます。
夏の青い空の下
濃い紅色の咲き様はそれは豪華。
それに対して
コントラスト際立つ
白くすべすべの幹が
優しくて
大好きです。
サルスベリの花言葉を調べました。
『雄弁』
枝先に花が群生する姿が華やかで堂々としていることから、この花言葉が生まれまたそうです。
それから
『愛嬌』
堂々とした中にも愛嬌があれば最高です。
『不用意』
サルでもうっかり滑りそうなツルツルとした幹にちなんで。
PTAの会長とか
地域の下水道に関する運動なんかして
雄弁だった母 。
不用意にも
我が子を空き地に放置!していた母。
そんな母はもういないけど
時は変わって暮らす場所は
蝉しぐれの中佇むホーム。
変わらないのは
愛嬌たっぷりの笑顔を忘れず
元気でいてくれること。