小さなアトリエから始まったスラム街の奇跡・・・
そんなサブタイトルがついた「あなたには夢がある」
ビル・ストリックランド+ヴァンス・ローズ著 駒崎弘樹訳
お世話になっている英治出版が12年前に出版した本。
当時は院内学級で国際理解教育に熱を入れていた頃で、
インスピレーションをくれる予感と同時に手に取った書物。
そして
アートが入院している子どもにとって
大きな力になることに気づき始めて
輪郭のない将来のプラン(今の活動をすること)が膨らみかけていた時期だ。
読書をする時間ができた今、
この本を改めて手に取り
その頃をふと思い出した。
アートが人生を豊かにすることを
著者の生き方を通して再確認したいという思いに駆られて。
それはほかでもない
新型ウイルス猛威により
病棟や施設での活動が停止し
アートを入院している子どもたちに届けられていないという
焦りがそうさせたのかもしれない。
「生きていくこと」と「アート」を
ぐっと引き寄せておきたい
そんな少々乱暴な思惑があったかもしれないと
自分のこころの中を俯瞰してみたりする。
本書の始まりはざっとこうだ。
高校時代、目的意識もなく落ちこぼれだった著者に
美術教師のロス先生が希望を与えた。
美術室はいつもロス先生の好きなジャズが流れ
コーヒーの豊かな香りが漂っていた。
そんな空間で
陶芸を通して初めて自分の可能性に気づいた著者。
アーティストとして目覚めた彼は
スラム街で少年たちのためのアトリエを開く。
そこはやがて人生を降りてしまったような人たちが希望を見出す場所として
大きく変わっていく。
*****
自分の高校時代を振り返る。
もともと物作りが好きだった私は迷わず選択科目は美術を選んだ。
美術室に一歩足を踏み入れた時の
なんとも言えない開放感は今でもはっきり覚えている。
イーゼルやらキャンバスやらが無造作に立てかけられ
キャビネットにはデッサン用の石膏像がずらり。
奥の準備室には先生が描いたらしき油絵の大作が立てかけてある。
確か先生も準備室でコーヒーを飲んでいた。
美術室。
なんだかそこだけ外界と隔てられた
異質な、不思議と自由で可能性に満ちた空間に思えた。
そして先生の自立した世界観に魅力を感じて
とても居心地が良かった記憶がある。
「あなたには夢がある」の著者も、もしかしたら
ロス先生に同じような魅力を感じたのかもしれない。
アーティストその人にしかない世界観を。
著者はやがて大学で美術を教えるようになり学生たちに芸術の力を訴えた。
「芸術はより大きな世界、幅広い経験ができる世界への架け橋」
「人は芸術で変われる。芸術は骨の髄まで染み込む。芸術の不思議な力が、生きがいのある生き方とはどんなものかを教えてくれる」
と。
今、世界中が混乱し
先の見えない大きな不安を誰もが抱いている。
そんな時に希望と勇気を与えてくれることのひとつが
まさに芸術ではないだろうか。
私が
院内学級にいた頃に
病と闘う子どもたちに喜びと希望をもたらすのが芸術だと悟ったことが
この本を改めて手に取ったことで確信となって迫ってくる。
芸術の力は普遍である、と。
芸術が奇跡までも起こす。
芸術は社会を変える。
世界中のアーティストこそ
彷徨う人々を骨の髄から救う人たちなのかもしれない。
今、この本を改めて手に取って良かった
と心から思う。
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