無言館を訪れたのは2回目。
無言館は信州上田市にある戦没画学生慰霊美術館で
太平洋戦争などで志半ばで戦死した画学生の遺作、遺品を展示している。
無言館の名にふさわしくひっそりと
しかしその存在感は圧倒的だ。
鬱蒼とした山道をそろそろと車でよじ登ると
忽然と現れるのはコンクリート打ちっ放しの無駄ひとつない
シンプルな平屋造りの建物。
建物の入り口手前で来訪者の目を惹きつけるのは
戦没画学生慰霊碑「記憶のパレット」。
大きさは、幅3メートル奥行き2メートルほどもあるかと思う。
現在判明している5百余命の画学生の名前が刻まれている。
そして館内へ。
前回訪れた時よりも作品が増えたように感じる。
当時の東京美術学校(現・東京藝術大学)に在籍していた学生や
独学で絵を学んでいた絵描きの卵たちの絵の数々が
いっそう力強く全身に迫ってきた。
飢餓とそして死への恐怖と闘いながら最後まで絵筆をとり
生きることの希望を
画布に刻んで亡くなっていった。
絵筆を銃に替えなくてはならなかった彼らの無念さ、
そして絵を描く、物を作り出すということが
どれほどの喜びをもたらすのかという実感を
ひとつひとつの作品が語っているようだった。
🎨 🎨 🎨
婚約者の裸婦像が何点もあった。
画家になることを夢見て
帰ったら絵を続ける
そして夢を一緒に歩こうと
婚約者に誓い約束しながら描いたのだろうか。
愛する人のありのままをキャンパスに描く画学生と
それに応じる女性の情景が浮かぶ。
若い二人の純粋な愛とセクシュアリティが生なましく
そして生き生きと観る側に伝わってくる。
あと1時間、あと10分・・・
と号令がかかるまで愛する人の前で筆を握った画学生。
しかし・・・。
「生の輝き」を戦争は無惨にも破壊する。
戦争とは
愛も希望も夢も容赦なく奪う。
*****
無言館に入るとすぐ目に入る
館主の窪島誠一郎氏のあいさつが涙を誘った。
しかしさすがに覚えられない。
無言館HPより抜粋させていただく。
- あなたを知らない –
遠い見知らぬ異国で死んだ画学生よ
私はあなたを知らない
知っているのはあなたが遺したたった一枚の絵だ
あなたの絵は朱い血の色にそまっているが
それは人の身体を流れる血ではなく
あなたが別れた祖国のあのふるさとの夕灼け色
あなたの胸をそめている父や母の愛の色だ
どうか恨まないでほしい
どうか咽かないでほしい
愚かな私たちがあなたがあれほど私たちに告げたかった言葉に
今ようやく五十年も経ってたどりついたことを
どうか許してほしい
五十年を生きた私たちのだれもが
これまで一度として
あなたの絵のせつない叫びに耳を傾けなかったことを
遠い見知らぬ異国で死んだ画学生よ
私はあなたを知らない
知っているのはあなたが遺したたった一枚の絵だ
その絵に刻まれたかけがえのないあなたの生命の時間だけだ
窪島誠一郎
一九九七・五・二(「無言館」開館の日に)
現在無言館には130名の画学生の作品が展示されているが
まだまだ発見されるのを待つ作品があるはずで
見つかれば
または提供があれば
「記憶のパレット」への刻名、作品を収蔵し展示するそうだ。
作品が増えたと感じたのは
価値ある作品が今も寄せられ続けているということ。
画学生たちは亡くなっても
「夢や希望は失うな」というメッセージをも
彼らは伝え続けてくれているように感じる。
無言館の作品は
世界中に
夢を銃に替え
無念にも散ったおびただしい数の
尊い命が存在したことを物語る。
無言な画学生に代わって
彼らの遺した作品が私たちに語り続ける。
戦争は絶対にいけない。
シンプルにそう思う。
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