そんな東大病院での生活の中で特に印象に残っているのが、教員になって初めて担任として受け持ったTくんとの出会いです。
難病を発症して既に数ヶ月の入院生活。化学療法中で白血球値が下がっていて、ベッド上を無菌状態にする透明ビニールのカーテン、クリーンウォールを通しての始業式となりました。
手指の消毒をし、無菌室用のガウン、帽子、マスクを着用して校長先生と入室。形式的なやり取りを済ませ、午後ゆっくりと病室訪問。
お母さんが、「ほら、先生が来てくれたよ」と声をかけると、「先生?来てくれてありがとう」と。なんと礼儀正しいのだろうと感心していると、次に耳にしたのは、
「先生、ごめんね。僕もう目が見えなくなって、せっかく来てくれたのに先生のことが見えないんだ」
この時の気持ちを表現する言葉は見つかりません。
クリーンウォールに入って一緒に活動することはできるのか、消毒すれば物を持ち込んでいいのか、音楽は?どのくらいの時間ならそばにいていいのか・・・主治医に質問攻めにした覚えがあります。怒りこそ込もっていたかもしれません。先生、なんとかしてください!と言わんばかりの。
とにかく残された時間を楽しいことでいっぱいにしようとあれこれ考える。
だけど新米教員は、自分の運命を受け入れ静かに病と闘っている少年を前に、非力さを思い知らされ唇を噛むばかり。
時間は過ぎる。そして3週間後。悲しい日が訪れました。
何もできなかった。
何も。
時間が過ぎ、Tくんに何もできなかったことの埋め合わせをするかのように、何か面白そうなことを週末のたびに探し求めました。Tくん、君だったら何がしたい?
Tくんは私がするべきことを教えてくれました。
小学生の間ではその頃「怖い話」が流行っていて、短編集を買っては小学生男子の部屋へ。お話の世界にぐーっと入り込んで、なぜか恐怖感に心が躍りました。病院で?と賛否両論あり。でも確かにNくんとJくんと3人、はしゃいだ思い出は宝もの。
フエルトやビーズetc.を買い込んでは中学生女子の部屋へ。手と一緒に口も忙しく動く・・。やっぱり作るって楽しいね。おしゃべりもなぜかはかどります。
流行りの洋楽をCDにコピーしてはRくんのところへ。部屋で一緒に聞きながらリズムをとったなぁ。
そのうち、英語の授業を通してカーペンターズの”Top Of The World”が大流行(するように仕向けた?!)。
英語教員になってよかった✌︎。堂々と自分の好みの洋楽を教材にできる。
余談ですが、学校で採択する教科書は生徒に配布しますが、実際は元の学校に戻るために一人ひとり自分の持っている教科書を使います。ですから実質個別授業。でも見事に全ての教科書にこの”Top Of The World”が載っていたんです。
タイムスリップしてすっかり中学生気分。ダイアトーンポップスベスト10を一人懐かしむ。
みんな一生懸命歌詞を覚えて、中学生全員合唱を披露するまでになりました。ゴズペル調にからだごと。
Such a feeling’s coming over me….There’s wonder in most everything I see….
こんなことが続き、中学2年のSさんとの日々も重なり、いつの日かお母さんの雑用代行はどこかへ飛んでしまいました。
夢はひとつにまとまった!本格アートを子どもたちに!
続く・・。
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