〜SHJヒストリー12 入院期間が短いと院内学級に入れない!?〜

〜入院期間が短いと院内学級に入れない⁉︎〜

院内学級に入るためにはもといた学校から転校、学籍を異動する必要があります。私が2012年3月末までいた院内学級では、医師の治療計画の入院期間がひと月以上であることが、転入の条件でした。

仮に入院が10日間と予定されていても長引く可能性は十分あります。じっさいに2週間の予定だからと学籍は異動できずその間ベッド上で自習、さらに退院が延びて2ヶ月近く入院していた中学生、Mさんがいました。結果、2ヶ月間学校教育が受けられませんでした。この生徒は入退院を繰り返していて、同じようなことが以前にもあったことから、

それじゃ結果的に入院期間がズルズル長引いたら院内学級には入れずじまいで学習の保障がないってことですか!しかも前例がある。予定は未定だってこと分かってるじゃないですか! 

などと朝会で吠え、いや~な雰囲気を作ってしまったことがありました。

学校での学習を強く望んでいたMさん。

決まりだから?教育を受ける権利を保障するのが、学校では?

しかもここは特別支援学校だよね?

教育を受けさせる義務を学校自体が怠っているじゃないか、と憤りを隠せなかった。籍は今まで通っていた学校にあるんだから課題をもらえばいいではないか、という論理です。愛もなければ人権意識など1ミリもない。

そんな声が多かったのか、現在では予定入院期間が基本1ヶ月としながらも応相談だったり、医師の許可次第だったり、もともと学籍異動が必要ないところもあったりで、手続きの短縮化含め、入院児が学習空白がないように配慮されるようになったようで、あの闘いも無駄ではなく、少しは貢献できたかな、と自画自賛。

とにかく、あの頃は、放課後や教材研究の時間、密かにMさんの部屋に通ったものです。

そのMさんは現在病室でSHJスタッフとして、奮闘中!

SHJ活動の一番の理解者のひとりです。

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〜ジャングルジムはどこへ行った?〜

週末、孫3人を預かって近くの公園へ。

この辺りは都内でも緑豊かで児童遊園や公園が点在していますが、私が小さい頃によく遊んだジャングルジムを見かけなくなりました。落下事故の多発を受けて安全策のために撤去され始め、今では10年前の半数しかないといいます。

ジャングルジムとは名前の通り、ジャングルをイメージ、都会にいながら自然の中で体得するバランス感覚などを培うために考案された画期的な遊具ではなかったでしょうか。

立方体がいくつも積み重なっていて、ふと所々、パイプが渡されていない部分があって、ドキッとするスリルも味わいながらいろんな遊びに発展したものです。

絶対に地面に足をついではいけない空中鬼ごっこ、秘密基地遊び、一番高いところを誰が占領するかの競争・・・。この三次元の立体空間は、まるでサル類が開拓した森林そっくり。

心理学者の河合隼雄氏(1928~2007)は、著書『子供と自然』の中で、こう言っています。

サルの祖型は、樹上生活に対する様々な適応形態を発達させた。第一に枝をつかむことから、親指と他の指が向かい合い - 拇指対向性という – 物を自由につかむ指の能力が発達した。五本の指がバラバラに動き、手を自由に使う、道具使用と製作にかかわる基本体制ができあがった。

ジャングルジムで遊ぶことは、しっかり掴む握力に加え、高いところまで登っていく脚力と腕力、四肢を使った空間でのバランス、位置関係の学習、姿勢の発達など、様々な運動能力を伸ばすことにつながります。

  • のぼる、降りる・・普段の生活の中では使わない筋肉をたくさん使う。
  • 狭く入り組んだスペースに体をくねらせながら一生懸命入っていく・・上下だけでなく、斜め移動という三次元的な体の動かし方を学ぶことで体幹を強くし、姿勢を安定させる。視覚に頼らないボディイメージもできる。
  • それぞれの手足を独立させて動かす・・複雑な体の動きを学ぶ。

 

鉄で出来ている、ということにも意味があります。

ぶつけたら危ないじゃないか、と転ばぬ先の杖を出したくなりますが、可愛い子には旅をさせよ。何度か頭をぶつけて、「痛い」経験をする。それによって、硬い鉄枠に当たらないようにくぐり抜けるには、体をどう動かせばいいか、ということを学習するチャンスと捉えます。

ジャングルジムという危険な?!遊具を、なんとか頭を打たずに足を滑らせずに、そして落ちずに!好きなところへ登っていく、そして足を踏み外さずに降りていく、そして誰よりも高いところを目指して360度のパノラマを楽しむ・・スリル満点!なんと楽しかった思い出。

体幹を鍛えることで姿勢が良くなるだけでなく、怪我をしなくなる、そして集中力もアップするとも言われます。実はジャングルジムよりはるかに事故が多いのは滑り台、というデータも東京消防庁のサイトで見つけました。

危険、危険と排除してぬるま湯になった環境で育つ子どもが、たくましく自立していけるのか・・。

昔取った杵柄。そろそろ孫たちに木登りを教えようか・・。

参考文献

  • 河合雅雄 1990『子どもと自然』岩波新書.

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〜SHJヒストリー11 ヒントをくれた自立活動の時間〜

特別支援学校は、視覚障害者、 聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む)に部門が分かれています。様々な教育課程があり、どの教育課程にも「自立活動」という時間が設けられています。「自立活動」とは、

「個々の児童又は生徒が自立を目指し,障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識,技能,態度及び習慣を養い,もって心身の調和的発達の基盤を培う(学習指導要領より)」

内容は、健康の保持、心理的な安定、環境の把握、身体の動き、コミュニケーションとなっています。

この「自立活動の時間」が普通校にないユニークなひと時となります。

本来、障害による困難を克服して自立的な生活を目指すというのが目的ですが、院内学級の場合、病気による困難を克服するのは医療。もっぱらその目的は入院生活を送る上での課題解決ということになり、内容は各学級の裁量に任されています。

東大病院では、週に一回の自立活動の時間が基本的に全学年合同で行われていました。企画運営する学年が輪番となっていて、担当になった学年がリーダーとなって仕切ります。教科授業は前籍校の教科書を使って学習するために個別的になりがちです。そのため集団の活動を確保し、社会性やコミュニケーション力を身につけるためばかりでなく、学年を超えた関わりが持てる画期的な授業でした。季節に合わせたイベント的なものが多く、リーダー学年は、放課後も病棟でミーティングする場面が見られ、頼もしく感じ、微笑ましかったものです。

東大病院に4年いたのち、世田谷区にある国立成育医療研究センターの院内学級に異動しました。

こちらの自立活動の時間は、東大病院のそれとは全く違う観点で行われていました。入院生活におけるストレスに課題を置き、心の安定をその目的とし、一人一人が興味のあることで気分転換する時間となっていました。子どもたちが一番生き生きするお気に入りの時間です。

ゲームが好きな生徒は盤ゲームやUNOなどのカードゲーム。時には集まって映画鑑賞をすることもありました。

そして、やはり女子たちは手芸やクラフトが何より好きで、おしゃべりも一緒に盛り上がるとびきりの時間となっていました。作ったり描いたり、バレンタインの頃にはチョコレートを作ったり・・そんなクリエイティブな活動は、心からの笑顔が全員に見られ、そんな子どもたちの中にいることが最高に楽しかったものです。授業時間では足りず、病室で引き続き盛り上がる、という流れはしょっちゅうでした。

この時の感覚がSHJの原点とも言えます。

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〜SHJヒストリー10 総合の時間、英語の授業もSHJのヒント満載!〜

行事の思い出の中で特に印象に残っているのが毎年秋に行われる学習発表会。

その年の中高学部の出し物は「海外特派員報告」でした。

担当の英語の授業と総合的な学習の時間に、横断的に行っていた国際理解教育の総まとめを、テレビ番組仕立てにしました。

環境問題や人権問題などの中からそれぞれ1つテーマを決め調べたことを、「特派員」として現地からリポートするという設定。

英語教員だからというのももちろんありましたが、遠い世界に思いを馳せ広い視野に立ってほしい、と強く願っていたのが国際理解教育を積極的に進めていた理由です。病院という閉鎖的な空間にいると、とかく近視眼的になってしまうもの。”病気になって友達と引き裂かれた可哀想な自分”と決めつけ、そこにとどまってしまう。そんなうつむいた顔を上げて少し遠くを見る、海の向こうに気持ちを向けることで固まっていた心が解き放たれることを期待しました。飢餓や戦争で明日もわからない地域、紛争で国を追われる難民、温暖化など自然条件の変化の中、絶滅の危機にいる動物たち、言論の弾圧や女性差別、人種差別で計り知れない苦しみを抱える人たち。

特に少年兵の話、女の子が教育を受けられない国があることなどがテーマに上がると、自分だったら・・と気持ちを置き換えて話し合う機会にもなりました。

そんな中、中2のHくんは、「僕はやっぱり身の回りのことをテーマにしたい。日本からの報告、ということでいいかな」

”日本で進むユニバーサルデザイン”と題し、院内を取材しました。インターネットでささっと調べるのではなく、病院という公共施設に自分がいることをあえて利用したHくん。さすがです。私の思惑としては次の段階として海外ではどれくらい進んでいるのかな・・というところまで発展するといいな、と考えていたけど、体調の悪い日が多い中、院内を自分の足を使って実感し完成となりました。

まず定義を調べて・・

「障害の有無、年齢、性別、人種等にかかわらず多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境をデザインする考え方【障害者基本計画】」

そうか、普段何気なく利用しているものにも、なるべく多くの人が使いやすく設計されているものが多いんだね。

👣

トイレの表示は大きくてわかりやすい。

エントランスは自動ドアで誰でも楽に利用できるね。

エレベータ内のボタンは車椅子の人でも届くところについている。

・・・・

病院だけあって、一番のユニバーサルデザインはボランティアさんたちの存在じゃないかな。

なるほど!

受付のあたりではエプロンをかけたボランティアさんたちが迷っている人に説明したり、荷物を持ったりしている。廊下では車椅子を押したり、にこやかに話しながら案内したりしている。

完璧なユニバーサルデザインは存在しないことを確かめてから、

それを補うのはやっぱり温かい人の心だね。

この日はHくんの気づきから私は大切なことをまた一つ教えてもらいました。

👣

取材を終えたHくんはパワーポイントに写真を取り込んで、キーワードを入れ、発表原稿をせっせと仕上げていました。

当日。

🎤

「では次です。ここ日本でユニバーサルデザインがどれだけ進んでいるか。東大病院からHさんのリポートです。Hさ~ん」

「はい。こちらHです。1990年代にアメリカで始まったユニバーサルデザインですが・・・」

🎤

海外としっかりリンクさせたHくん。私の思惑、バレてました。

学ぶこと、追究することはすなわち、人と共感し、相手の立場に立ってものを考えられるようになること。そして生き方を模索すること。授業のたびに、ささいな毎日の積み重ねが、将来の希望の種になればと考えながらの、英語の時間、総合の時間が本当に楽しかったものです。

学びあう、気づきあう、共感する。ワクワクする。

子どもたちが私の先生。

Does happiness help healing?〜楽しい心は治癒を助けるか〜

Yes! indeed!

不治の病いを笑って治した医療ジャーナリスト、ノーマン・カズンズ(1915~90)の著書「笑いと治癒力」の中で彼は、

想像力、陽気な喜び、積極的情緒は、治癒のための活力増進剤である

と言っています。

これはそのままスマイリングホスピタルジャパンの理念となっています。

子どもたち、家族、医療スタッフに時折アンケートをとって活動がプラスに受け止められているのか、辛口意見も含めて感想をいただき、質向上に取り組んでいます。アーティストの愛溢れる工夫と技には頭がさがる思いです。

ところで、2011年、ハンガリーのアンドラス・ベレス博士とタマス・メイヤー博士率いるスマイリングホスピタル調査チームが入院中の子どもを対象に、病院訪問がどれだけの効果をもたらすのか、科学的に調査しています。

ハンガリー保健省の許可を得、カポシ・モール教育病院の無菌室で無痛法で採血、活動30分前と1時間後の数値の差を見ると、アーティストの訪問を受けた24人の子どもたちのうち、13人はリンパ球数の増加を示し、8人は変化なし、減少を示したのは3人。訪問を受けなかった9人は、順に4人、3人、2人という結果になりました。結論として、アーティストの訪問が免疫に良い影響を及ぼす可能性を表しています。
PubMed米国立生物工学情報センター(NCBI) 学術論文データベースより

SHJの活動を説得力を持って広げていくためにはこのような科学的裏付けが欲しいところ。

日本の病院で同様の調査を実施するためにはSHJがもっともっと今以上に信頼を得、研究者に協力してもらってやっと可能性が出てくるレベルの話。調査対象数もこの調査より多くして、より信ぴょう性のあるデータを作成すれば、医療機関は”SHJと組んだら相乗効果が見込める!”とさらに期待してくれるかも。

それとも、カリフォルニア大学医学部大脳研究所教授でもあったノーマン・カズンズ氏の、患者としての実体験に基づく言葉

想像力、陽気な喜び、積極的情緒は、治癒のための活力増進剤である

を胸に、エンターテインメントにとどめておくだけで十分なのかもしれないとも思ったり・・。

医師という科学者にとっては数値的根拠が欲しいのだろうけれど、医療の主役である患者の立場からしたらとにかく入院生活を生き生きと楽しいものにできたらというのが心からの願いだろう。しかし患者の元へいくためには病院にyes!と言わせなければならない・・。

・・・ええい、堂々巡りはやめて、さあ今日も子どもたちのところへ!

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