子どもが大切にされる平和な社会へ

退院してからのこと-1-

生死の境を彷徨い、奇跡的に取り留めた命。

今でも何が引き止めてくれたのだろう、とその力にふと感謝することがあります。

そしてあの頃を思い出したりします。

退院後、医師や優しい看護師に守ってもらっていた場所から放り出されたような寂しさに襲われたこと。

喜ぶべき退院なのに、

退院してからの試練は痛みより、

「どう生きるか」

を正面から突きつけられたこと。

だから、教員時代、治療が終わって退院し元の学校に戻る生徒を見送る時、あの頃の自分と重ね合わせて、100%喜んで手を振ることができなかった。

🌀治療により髪が抜けてしまった子。

・・・髪が生えてくるまで学校はお休みしたい・・・。

🌀退院後も通院治療は続き、薬を飲み続けることによりムーンフェイス(ステロイド剤摂取のために起こる顔が丸く、赤味を帯びた状態)のまま退院する子。

・・・退院、復学は苦痛だ・・・。

🌀しばらく身を置いていなかった場所に戻ることに引け目を感じる・・。

🌀体力的に不安・・。

🌀勉強についていけるのか心配。

🌀・・・

院内学級にいる間なら、周りの友だちは理解し合っています。

休み時間や病室で話題にし、互いに同じ思いを共有して仲間がいることの安心感の中に。

退院してからの不安は誰にでもあるはずだけど、それも仲間と喋って発散。

私たちは子どもが病棟や施設にいる間にアートを通して支援しているけれども、実のところ、私は経験を通して彼らの退院後のことも案じています。

学校で温かく受け入れられているかな、

友達は変わらず仲良くしてくれているかな、

体調は大丈夫かな、

晩期障害*で苦労していないかな、と。

元の生徒たちはみんな成人しているけど、今も連絡をくれる人もいて、どうしているかの報告が楽しみでもあり、心配でもあり。

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彼らの苦労は表面には見えてきません。

まず本人が試練を乗り越えたことで堂々と胸を張っていい社会に。

そして、闘病後の様々な悩みや心配事を温かく包みこみ支援する、社会ぐるみの態勢が欲しいものです。

健康な者は他人事とせず話したらいい。

「知らない、わからないから教えて。私に何ができるか」

当事者を敬う雰囲気が社会全体にあれば、人知れず苦労したり孤立したりすることも随分と減るはずです。

*晩期障害・・・病気そのものは治っても、放射線療法、化学療法外科手術などの治 療によってもたらされた副反応や病気そのものの影響が後々まで残 ったり、時には後になって新たにおこってくること。晩期合併症ともいう。

参考:晩期障害 がんの子どもを守る会

   デジタル大辞泉 晩期障害